【オートモーティブワールド16】「自動運転の実現をサポートするITシステムの進化と課題」…IBM浅井信宏氏インタビュー

業界 レスポンス

グーグルやアップルが自動運転車の開発で大手自動車メーカーたちと鎬を削る中、同じIT企業でも古参のIBMは、自動運転車をサポートするインフラの開発に注力するという独自の道を歩んでいる。

日本アイ・ビー・エムのソフトウェア&システム開発研究所で技術理事を務める浅井信宏氏は「自動運転自体の技術は車側の進化でかなり進んできている。とくにADAS(先進運転支援システム)の進化でかなりの事故は防げる。それでもやはり限界はある。80%までは車側だけで担保できる可能性はあるが、残りの20%は車側だけでは難しい。常に外部からデータを与え続けないと、100%に近くにはならない。最後の20%をいかに詰めていくかというところをやっている」と、自動運転に対するIBMの姿勢を語る。

浅井氏は最後の20%の具体例として「自動運転車はレーダーやリーダ―などを様々なセンサーを搭載して、外部の状況を認識するとともに、今何をしようとしているかを常に考えている。しかし、曲がった先に何があるかわからないし、センサー自体の到達距離は数百mなので、どうしてもわからない部分がでてくる」と指摘。

さらに「自動運転の基本となるのが地図だが、事故や工事などで道路が一時的に通行止めになっているような状況は地図に表れてこない。地図通りに行き先を決めて、周囲をセンシングして曲がってみたら、実は駐車車両があって、通過できないような状況になっていた。しかもUターン禁止だったりすると、車は次にどうすれば良いのかを判断できなくなってしまう。そうした状況を作ってはいけないので、車の通行に影響を与えるような事象は、なるべく早く車にどんどん伝え続けていかないと、周囲をみるセンサーだけでは車はちゃんと動いてくれなくなる」とも。

その上で浅井氏は「IBMではバックエンドの仕組みを研究し続けていて、今年の9月に開催されたフランクフルトモーターショーで自動運転車をサポートするシステムをアナウンスした。製品としてはすでにオーダーできる状態になっている」と明かす。

このシステムはビッグデータを活用したものだが「実は非常に大きな工夫がある」と浅井氏は話す。というのも「通常のビッグデータのシステムはデータを車側から上げて、貯めて分析して返す仕組みだが、一番の問題はその時間差にある。車の状況を判断する時に、いくつかのデータベースを見にいったり、あるいは分散ファイルに入っているデータを集めてくるだけでも秒単位の時間がかかる。しかし車はその間にも移動しているので、注意すべき場所を過ぎてしまう可能性がある。このため通常のビッグデータシステムでは自動運転のサポートができないと我々は考えている」からだ。

そこで「我々はエージェントシステムを採用した。これは我々のシステムの非常に特徴的なところで、ビッグデータの処理システムにはかなりのアドバンテージがあると思っている。エージェントシステムで高速でデータをフロントエンドで処理するというコンセプトは多分、他社はやっていないと思う」と浅井氏は強調する。

その仕組みは「車1台に対応するソフトウェアのエージェントがサーバー側にいる。いわば10台の車が走行していれば10のエージェントがサーバーの中で動いている。車の最新のデータはエージェントの中に維持されて、時間が経過したデータはハードウェアシステムにいく。そうすると最新の情報をわざわざ他のデータベースやハードウェアを見なくても個車エージェントを見るだけで、車の状況がわかる形になっている」という。

しかもエージェントは、個車対応のほかに、さらに2種類ある。そのひとつが環境エージェントで「道路の混雑状況や事故などによる一時的な交通規制など環境情報も、データベースで確認しようとすると時間がかかる。このため個社エージェントで高速アクセスできるようにしたのと同様、環境情報もエージェントを介して高速でアクセスできるようにした」というものだ。

この環境情報は「地図情報のほか4層のレイヤーになっている。重要なのは進行方向の先に何が起こっているかを知らなくてはいけないので、ひとつのセルで一定範囲を区切った上で、その範囲内のすべてのレイヤーを束ねた形で個別の環境エージェントにアサインしている。例えば『日本橋1丁目エージェント』とか、『日本橋2丁目エージェント』といった形でエリアごとに分割し、アサインされたエリアのすべての変化をエージェントが常に監視して、最新の道路状況を車側に与える」仕組み。

しかも、情報の与え方も車両だけでなくドライバーに応じて変えることができる。それを可能にするのがドライバーエージェントで、「1台の車を複数でシェアする場合、同じ車でも運転する人によって個性が変わってくる。当然、走り方も違うし、好みの道も異なる。これを同じ車として認識すると誤差が生じる。ドライバーエージェントはドライバーごとに支援するもので、初心者ドライバーならルート検索も走行しやすい広い道路を優先して選び出すといったこともできる」という。

この3種類のエージェントは、お互いにやりとりをしながら、データを集めていって自動運転につなげていく仕組みにもなっている。例えば「道路上に車両が停止したままの状態になり一時的に道路が狭くなってしまった場合、トラックなど車幅が長くて通過できない車両や、狭い道を通行するのが苦手なドライバーに対しては迂回を促す」といった具合だ。

浅井氏は「完成車メーカーの自動運転をサポートする位置づけとしてこのシステムを造っている。だからシステム自体の販売先はあくまでも完成車メーカーやサプライヤーが中心になる。ただ地図情報などはできるだけ共通化した方がメリットがある。このためサーバーを始めとするシステム自体は個別に完成車メーカーに納入したとしても、地図情報やイベントデータなどをシェアすることができるようにもなっている。相互につながるようなバーチャルなバースは持たせている」と話す。

その一方で「自動運転が目標としてあるが、自動運転のインフラということだけを考えると2020年にならないとビジネスとして成り立たないようでは困るので、そこに至るまでのいろんなロードマップとシナリオもカバーできる仕組みになっている」とも。

このため、自動運転車でない通常の車両でもサーバーとつながる環境になっていれば、このシステムを利用できるようにもなっているという。

浅井氏は「このシステム自体はさらに進化を続けており、オートモーティブワールドでは最新の話をしたい」と述べていた。浅井氏は2016年1月15日に東京ビッグサイトで開催されるオートモーティブワード2016の専門技術セミナー『激化するコネクティッド・カー開発の現状と未来』に登壇、『自動運転の実現をサポートするITシステムの進化と課題』と題した講演をおこなう。

オートモーティブワード2016の開催は、2016年1月13〜15日。会場は東京ビッグサイト。専門技術セミナーは事前申し込みが必要。

  • 小松哲也
  • 日本アイ・ビー・エム ソフトウェア&システム開発研究所 技術理事、浅井信宏氏《撮影 雪岡直樹》
  • 日本アイ・ビー・エム ソフトウェア&システム開発研究所 技術理事、浅井信宏氏《撮影 雪岡直樹》
  • 高度な自動運転の実現に向けパートナーシップを結ぶ独コンチネンタルによるイメージ(参考画像)
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