「2020年まで事故死傷者ゼロな車」を打ち出す ボルボXC90からの戦略と勝算

コラム Clicccar

この2月末から、ボルボは待望の新世代プラットフォーム「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)」を初めて採用した新型XC90を、日本市場に投入する。2010年にフォード・グループ傘下から離れて以来、1兆3000億円もの先行投資をして独自に開発を進めてきたモジュラー・プラットフォームだ。すでに新しいXC90に関する試乗インプレッションも方々で出回っていることと思うが、いくら乗り込んでも公道の限られた条件で試せない、肝心要のものがXC90にはある。

それは、ボルボの最新の安全性だ。古くは1959年に3点式シートベルトを発明して特許を無料公開したり、近年では自動ブレーキ導入で先駆的な役割を果たした通り、安全性でつねにイニシアチブをとり続けているという自負が、ボルボにはあるのだろう。今回のXC90でも、野心的な取り組みを掲げてきた。SPAは新型XC90以降のボルボのハイエンド・モデルの骨組みとなるプラットフォームだが、2020年までに新世代ボルボ車における事故死傷者を、ゼロにするというのだ。ボルボはこの取り組みを「セーフティ・ヴィジョン2020」と呼んでいる。

なぜ今、「セーフティ・ヴィジョン2020」なのか? それは、ユーロN-CAPの衝突安全性試験において、ニューモデルは今や5ツ星がほぼ当たり前になっているのに、英国やフランス、ドイツ、日本といった先進国の交通事故死傷数が減少傾向から一転、ここ数年は微増に転じているのだ。衝突安全性の向上は無論追及すべきだが、それだけでは死傷者数の減少に寄与しない現実がある。加えてボルボは独自の事故調査チームを擁しているが、データを解析してスウェーデンやアメリカの事故死者の1/3から半数は、道路からの落下による負傷が原因で命を落としていたことを突き止めた。

道路から逸脱するタイプの事故は、ブレーキやステアリングといった操作が利かないため、速度が速ければ速いほど結果は深刻。しかし対策するにも最大の問題は、乗員の身体がランダムに揺すられてシートから動いてしまうこと、そして着地時のインパクトによって脊椎が損傷するケースが多く、生き残っても重度の障害が残ることだった。

かくして新型XC90から刷新されたシートに搭載されたのが、ランオフロード・プロテクションだ。この新しい機構をボルボ本社のテストコースで試すプレス向けの公開クラッシュテストに行ってきた。始めにいってしまうがクラッシュテスト自体はたったの2秒ぐらい。スウェーデンまでこの2秒のために数日の出張というのも妙な気がしたが、逆にいえば、このたった2秒に生死の境がある、ともいえるわけだ。

 

ランオフロード・プロテクションの仕組みはこうだ。まずクルマが道路を外れて落下し始めたら、そのことを4輪をモニターするセンサーが感知する。この情報を元にモーターが作動して、シートベルトプリテンショナーが締め上がって、乗員の身体はシートにキツく固定される。ここまでは電気系統によるコマンドだ。ちなみに開発段階ではシートをランダムに揺するため、ロボットアームにシートをくくりつけて実際のゆれを観察したそうだ。

だが身体を正しく固定することでエアバッグなどのクッション効果を発揮することと、バウンドから着地する瞬間に物理的な力のインパクトを受けることは、トレードオフの関係になる。そこでボルボは、前席のシートクッション部、つまり固定金具に、衝撃吸収構造を採用した。一定以上の加速Gエネルギーを受けると、噛み潰されるように作動する柔らかいメタルのパーツとなっている。これが着地の瞬間に乗員の脊椎にかかる負担を、つまりインパクトのピークを和らげるのだ。

クラッシュテストで荒々しく宙に投げ出されたXC90は、リアから着地した次の瞬間、反動で前のめりに強く地面を叩いてフロントホイールが割れるほどの衝撃を受けていた。そして惰性でさらに進んだ後にやっと静止した。実験とはいえ、かなりバイオレンスな光景だった。実際の局面では、あの中に人がいることを考えると、まぁぞっとする。

現場では、外部の手が触ったり覗いたりで現況が変わるのを防ぐために、直ちにロープが張られたが、ダミー人形の顔に描かれていたチョークの跡が、エアバッグの中心を的確に転写されていた。乗員の保持は正しく成功したわけだ。シート下の固定金具が潰れていたかどうかは残念ながら見えなかったが、ダミー人形の脊椎も可視化されえないのはいうまでもない。当然、この衝撃吸収機構は世界初のものだ。

とはいえ以上は、「道路から落っこちたら」の最終防衛ラインの話であって、レーン・キーピング・エイドなど高度な自動アシスト制御を組み合わせ、そもそも道路から落とさないようにすることで、二重三重に安全を確保している。半自動運転やドライバー・アシスト機能を目的とするのではなく、確率論の上で事故発生ファクターを摘み取って、予防策と事後策を講じることで実効性の高いシステムとする、それがボルボのアプローチだ。

例えば衝突安全性に関しても、ボディ剛性を上げるという物理的な対策に加え、高度制御については「インターセクション・サポート」という右直事故回避の機能が組み合わされている。これは交差点で右折時、対向車との衝突の可能性を検知して、クルマが自動的にブレーキをかけるというものだ。正面から45度の側方衝突という、ハード・クラッシュの可能性を予備的にも事後的にも減じるのに効果があるだろう。要は事故が起きる前も起きてしまった後も、二重に対策して乗員を守ろうという総合的なアプローチだ。

もうひとつ地味ながら、XC90には、これまで話してきたような落下や衝突の衝撃が加わると、ブレーキペダルをリリースして足元の生存空間を広げる機能も追加されている。他に予防策としては、後続車両が追突する可能性が高まると、通常より早い点滅でハザードランプが光る他、衝突回避・軽減自動ブレーキでは歩行者やサイクリストを夜間でも検知できるようになった。

安全性は、機能が沢山並んでいる方が安心という、安心感が転じて売り文句にされがちだが、最終的には「効いたかどうか」という結果論の実効性でしかない。ボルボの「セーフティ・ヴィジョン2020」には、回避・軽減機能をただ積み上げるのではなく、予備的かつ事後対策的に運用して掛け算で効果を得るという、出口戦略がちゃんと見えている。そうでなければ、そもそもそんなこと宣言できるはずもないのだろうが・・・。

(南陽 一浩)

 

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