「モータスポーツ技術と文化」シンポジウム2019の聴講を終えて【自動車技術会モータースポーツ技術と文化シンポジウム9】

コラム Clicccar

今回、このシンポジウムでモータスポーツ車両・技術の最前線に立つエンジニア諸氏が熱く、深く語ってくれたストーリーには、ひとつ重要な「共通項」があった。それは「モータスポーツは特殊な技術領域ではない」こと。

つまり、ヒトが操ってクルマが走る。底に何が求められるかを考え、解析し、技術的な目標を設定し、様々に知恵を尽くして実現する。この「クルマが走る」という本質の部分は、タイヤが路面と接する力をいかに把握して、コントロールして、使いこなすかに尽きる。それを摩擦の限界で組み立てるのが競技車両であり、もっと幅広い状況にどれだけ対応して、どのくらい上手にできるかが求められるのが、一般道をふつうの人々を乗せて、状況に応じて走るための「クルマ」なのである。競技車両のほうが、ターゲットがはっきりと把握しやすいだけで、求められるものと、それを実現するプロセスは、一般車でも変わらない。

まして、タイヤの上で走る「クルマ」を自ら操って走ること、それが心地よく、「動く」という行為そのものが脳に刺激を与える殼こそ、自動車はここまで欲望をかき立てる工業製品となった。そのことをはっきりと認識すべき時に、私たちは立っている。自ら操る必要がない移動空間は、単なる「道路を使う交通インフラストラクチャー」となり、「自ら操り」「自分の肉体の延長として動き、走る」もの、すなわちスポーツギアではなくなる。その両方を、それと認識せずにごちゃごちゃに混ぜ合わせたまま扱っているのが今の自動車社会であり、自動車産業なのである。

その意味で、モーターサイクルのほうが4輪車よりもひと足早く、「移動の道具」としての役割を求められなくなりつつある。とくに高性能バイクほど、その性能をフルに引き出すには、乗り手も舞台も限られる状況だ。しかし、乗って操ることはオモシロイ。だからこそ、タイヤの摩擦限界を使って、ヒトが操ることに対する能力は高く、しかもそれを、エキスパートの乗り手でなくても、何気なく操っただけで感じ取ることができ、そこから「もっとうまく操る」ことに挑むように導く。そういうスポーツギアとなることを具体的に追求し始めている。

カワサキ・松田氏が「モーターサイクルは『おもちゃ』である」と看破したのはまさにそこであり、したがって「一般向け車両と、競技車両に求められるものは同じ」であり、「最高の車両性能を、最高の安心=車両の反応と挙動への信頼を持って操れるクルマ」という姿を追求する。この思想と方向性に対してスバル・野村氏が強く共感したのは、いまや「ドライビングというスポーツ」のための手具としてのクルマ(4輪車)も、その認識の上につくられるべきものになっているからだ。つまり「スポーツカー」というものは、表面的な形や性能数値では定義できないという、ごく当たり前の事実を、クルマに関わる全ての人々が認識する必要がある。

最近、某社のCMで「アメリカにはかつて1600万頭の馬がいた(交通機関として)。それがクルマに変わった。でも馬は競走馬として残っている」というストーリーが語られている。ひとつ補足しておくなら、ヒトとの良い関わり、スポーツとしての関わりを築いている馬は、競走馬だけではなく、馬場馬術からトレッキングまで、様々に広がり、それらの全てが「ヒトと共に動き、走る」というスポーツを、遊びを育んでいる。

すなわち馬は、交通機関としての役割を終えてからの方が、ヒトと仲良くなった。「ドライビングというスポーツ」のためのクルマを作り、最良のコンディションで走らせるのが、これからのスポーツカー・メーカーの仕事、すなわち「厩舎」となる。そのメッセージを日本のクルマ社会に向けて最初に「発信」したのは、2017年東京モーターショーにおけるイケヤ・フォーミュラだったと記憶する。ようやく巨大メーカーの中にもそこに気づいた人士が現れた、ということか。

でもそれはずっとクルマとともにある真理にすぎない、ということが理解できているだろうか。その真理に触れ、工業製品としての自動車に反映しようとする時、モータスポーツは不可欠の存在なのである。この日の講演には、そう実感させるストーリーが詰まっていた。

かつて日産でエンジン開発・製造を指揮され、後にNISMO社長として日産モータスポーツの世界的統括組織に育てた佐々木健一氏とは、サーキットを駆けるマシンたちを見ながら「(自動車が交通インフラに『進化』した後、)最後に残る『クルマ』はこれだけですね」と繰り返しお話ししたものである。しかし今でも日本の自動車産業の中では「モータスポーツは特殊な分野」でしかないのであって、そこが日本車・産業の限界となっている。でも、これだけの体験と知見を持つ人々が、日本の自動車技術界にはいる。今回のシンポジウムで触れ合えたのはそのごく一部。そう思うと、まだ捨てたものではないか…とも思える。

問題はこれだけの人材と知見を、自分たちにとって「欠くことのできない財産」と、企業組織が、つまるところ経営者たちが、認知し、理解し、行動できるか、にかかっている、ということである。

(両角 岳彦)

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