GSX1100Sカタナの市販に向けて変更したクレイモデルの問題点とは?【真説「スズキ初代カタナ」第9回】

コラム Clicccar

GSX750S/GSX1100Sカタナに18年間乗り続け、オーナーズクラブの副会長も努めた人物が、自らの経験と多くの人へのインタビューから「カタナ」というバイクについて考察する。

スズキ社内に持ち込まれたED-2を見て言葉を失ったスズキのスタッフたち。今までの常識では考えられないフォルムはそれだけのインパクトがあった。
そのときエンジニアとして同席していた横内悦夫さんは
「こんな仮面ライダーのようなモノやるのか、と発言された社長のお考えの裏側は何だろう。発言のニュアンスからED-2の素晴らしさは十分認めておられるように感じ取れる。だからヒット商品になり得ることを証明すれば、生産化の許可がもらえるはずだ」
そう考えた。

すぐに商品企画部を中心に、谷雅雄さんを始めとした国内外の営業、設計技術部門の代表が別室に集まり、どうやったら社長を説得できるかを考えた。そこで得られた結論は「ケルンショー(1980年10月開催)にプロトモデルを展示してみよう」だった。そこでの来場者の反応を見て社長を説得すればよい。横内さんたちはすぐに実行に移した。

ED-2の優秀なところはデザインが斬新だっただけじゃなく、ライダーがまたがったときに一体感が得られる人間工学的にも優れたフォルムだったことだ。(画像提供:TARGET DESIGN)

横内さんは続ける。
「しかしED-2を見たメンバーみんなの気持ちは『ぜひ生産化にもって行こう』の一つだけだった」
多くのスタッフがED-2のスタイルに惹かれ、市販化することを望んだのである。やるならば1981年当初から生産を立ち上げたい。ケルンショーの結果を待っていては時間がなくなる。その前に生産を前提としたプロトモデルの検討会を開く必要がある。そこでスズキ社内の主要メンバーにターゲット・デザインの渉外役であるハンス・ムートを加えてミーティングが開催された。

量産することを考えると、ED-2のクレイモデルにはいくつかの問題があったと横内さんは語る。
「設計者とハンス・ムートとの間で議論が始まった。しかしどちらも立場があって頑なに主張を曲げない。両者の間に葛藤が起きた」。
議論は平行線をたどった。ED-2のデザインスケッチを数多く書き上げたジャン・フェルストロムもデザイナーとしてのプライドがあるからだろう、反発もあったようだ。

これらED-2のデザインスケッチを描いたのはすべてターゲット・デザインの若手デザイナーだったジャン・フェルストロム。右下に彼のサインが入っていることが証拠である。(画像提供:TARGET DESIGN)

その議論を横内さんは横でじっと聞いていた。
双方中々譲ろうとせず収拾がつかない状態になったとき、横内さんが口を開いた。
「ちょっと聞いてください。みなさんの言う事はそれぞれ正しいと思うけれど、自分の立場だけで主張しないでください。本当に考えなければいけないのは、将来買ってくださるであろうお客さまの立場になることだと思います。お客さまにとって最も都合のいい方向での解決策を見出すよう努力してください」
と頼んだのだ。そしてハンス・ムートに向き合うと「私と取り引きをしましょう」と持ちかけた。
「私たち設計者はこのデザインの基本を絶対に壊さない。その代わりあなた方はバイクの走る基本機能を壊さないで下さい。この取り引きは両者対等です」

左からGT750(2スト3気筒)、GS750(4スト4気筒)、GS400(4スト2気筒)。どれもユーザーの気持ちを掴んだ人気モデルだが、開発には横内さんが関係していた。

「しばらく考えたムートは快く承知してくれた。そして周りにいた設計者たちも何も言わず同意してくれた」と横内さん。
すると、とたんにミーティングの進行が早くなったという。
「ミスターヨコウチ、あなたの方から先にデザインへの要求をして下さい」
と少し冷静になったハンス・ムートが笑みを浮かべながら言ってきた。ここで横内さんは2つの提案をした。
ひとつはスピードメーターの位置。高すぎてライダーが伏せた時に前が見えなくなるので、通常の位置に下げてもらいたいということ。

クレイモデルではメーターは長いステーで高い位置にセットされていた。ライダーが伏せると前が見えにくいことから、横内さんは変更を依頼。ハンドルまわりの造形も興味深い。(画像提供:TARGET DESIGN)

もうひとつはシート。プロトモデルはタンデムシートが低くテールカウルが1〜2cm高い。これだと二人乗りで段差を通過したときに後席のライダーのお尻が浮いた場合、着座するときにシートカウルの角に尾てい骨をぶつける可能性がある。だから段差を逆にしてテールカウルよりシートを高くして欲しいと伝えた。

タンデムシート部が低いのは、ジャン・フェルストロムが描くスケッチからも見て取れる。彼のこだわりだったのかも知れない。しかしパッセンジャーのことを考慮して変更を依頼した。(画像提供:TARGET DESIGN)

ハンス・ムートはいずれの提案にも賛同。
横内さんは全員の前に「ユーザーに満足してもらう」という共通目標を立てることで開発チームをまとめ、ケルンショーとその後の量産に向けての準備を急ピッチで進めた。

(横田和彦)

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