オービスの手前に必ず警告看板がある理由とは!?最新の可搬式オービスで警告看板はどうなる?

コラム Clicccar

 オービスが日本の道路に登場したのは1970年代の後半だ。
 当時はタクシーやトラックの組合に力があった。オービスに撮影された運転手たちが弁護士や学者らとともに「オービス裁判闘争」を展開した。たとえば1977年11月16日付けの毎日新聞は、社会面に9段抜きの大きな記事を載せた。見出しはこうだ。

「違反のタクシー運転手──罰金拒否『無罪だ』/『機械に裁かれるなんてイヤ』/スピード違反取締り新兵器/“人権”めぐってホットな裁判」

 裁判のこと、またオービスがアメリカからいつどう海を渡ってきたか、『警察の盗撮・監視術』(浜島望著。技術と人間刊)が詳しい。

『警察の盗撮・監視術』(技術と人間)より。著者の浜島望氏は2015年、83歳で亡くなった。私は生前の浜島氏宅へ頻繁に通って貴重な知見を聞き取り、さまざまな資料をいただいた。合掌。

 1980年代に入り、続々と判決が出た。すべて有罪だった。が、勝ち取ったものもある。1980年1月14日の東京簡裁の判決には要旨こんな部分があった。

「速度違反で無制限に運転者の容貌を撮影すれば、肖像権侵害のおそれがあるとの誹りを免れない。制限速度を多少超えた程度で撮影するのは相当ではないものといわなければならない」
「オービス設置路線であることを示す警告板は、必ずしも必要不可欠ではないものの、いわゆる囮捜査類似のものであるとの非難を回避するためにも、走行中の運転者から一目瞭然たるものにすることが捜査機関に果せられた責務であるといわざるを得ない」

 他の判決にも似たような言及があった。以来、オービスは赤切符の違反(現在の基準は一般道路で超過30キロ以上。高速道路等では40キロ以上)のみを取り締まるようになった。かつ、オービスの手前には必ず「自動速度取締機設置路線」といった警告看板が設けられるようになった。

 それから約40年を経た今、警察庁は「新たな速度違反自動取締装置」の導入を進めている。装置的にも運用的にもまさに「新たな」であり、私は「新型オービス」と呼ぶ。ネットでは「移動式オービス」「移動オービス」と呼ばれる。

 新型オービスのメインは、三脚に載せて神出鬼没に使える「可搬式」だ。可搬式の取り締まりにおいて警告看板はどうなるのか。その話をしよう。

「可搬式」の左側が、世界的企業であるSensys Gatso GroupのNK1005(SWSS)。右側が日本の老舗企業である東京航空計器のLSM-300だ。

 可搬式のうち東京航空計器のLSM-300の取扱説明書を見ると、「構成品一覧」に「『速度違反自動取締中』看板」とある。「ウエイト付」とされている。

LSM-300の取扱説明書の「構成品一覧」より。「速度違反自動取締中」の予告看板がしっかり含まれている。

 可搬式も警告看板を設置するのか?
 交通警察官向けの雑誌『月刊交通』(東京法令出版)の2018年7月号に、愛知県警の運用状況について興味深い記事がある。
 そこに、「警察庁と法務省」との「主な協議内容」のひとつとしてこう書かれている。

「通学路等における可搬式オービスによる取締りについては、運用開始から約1カ月間は、予告看板1枚を掲出し、当該掲出期間に同装置による取締り活動の広報を展開するが、以後は予告看板を設置せずに取締り活動を実施することについて協議し、承諾を得た。」

 「予告看板」、いわゆる警告看板は、約1カ月間だけ設置し、その後は設けないというのだ。警察庁と法務省とで協議して決めたのだから、愛知県警以外でも同じ運用になるはずだ。
 そんなことでいいのか! 昔のあの判例はどうなるんだ!

 ここで参考になるのが、かつての「移動オービス」だ。ワンボックス車の荷室にオービスの本体部を積んで道端に駐車し、後部の窓から撮影する。測定方法はレーダー式と光電式があった。
 あの移動オービスにより警告看板なしで取り締まりを受けた運転者が「おかしいじゃないか」と文句を言ったところ、警察官はこう返したそうだ。
「移動オービスはオービスじゃないからいいんだ」
 なんちゅう屁理屈! と運転者は思ったそうだ。私も同様に思った。

 ところが最近、移動オービスの取り締まりをやったという元警察官と話す機会があった。こんな話が出た。
「おっしゃる昔の判決は、あれは無人式のオービスについてです。移動オービスは有人式なんですよ。無人式のオービスでは『速度違反認知カード』をつくる。移動オービスでは『速度違反現認カード』。認知と現認、はっきり違うんです」

 そうだったのか!
 私は固定式(=無人式)のオービス裁判をさんざん傍聴してきた。甲1号証(検察官が被告人を有罪とするため用意した証拠書類の1番目)はだいたい「速度違反認知カード」だ。移動オービスの裁判は少ないけれども、確かに「速度違反現認カード」だった。無免許や飲酒運転では「現認状況報告書」だ。
 つまり、分かりやすくいえばこういうことだ。

 固定式オービス = 無人式 = 認知 = 警告看板を設ける
 可搬式オービス = 有人式 = 現認 = 警告看板は不要

 前出の『月刊交通』にはこう書かれている。
「現場運用中は警察署員及び交通機動隊員各1名以上の体制で、取締りを行うこととした」
 可搬式オービスは「有人式」なのである。

 今は過渡期なので、警告看板を約1カ月間だけ掲出する運用をしているが、いずれなくなるだろう。
 そして、
「警告看板なしで捕まった。判例違反だ。無罪にしろ!」
 と誰かが徹底的に争えば、最高裁が判例変更の裁判をする、そういう段取りなのだろう。

 現代は監視カメラ(通称、防犯カメラ)があふれている。違反者の「肖像権侵害」なんて気にする人はいない。「人権」はどうやら死語になりつつある。時代は移り変わるのだ。

(今井亮一)

今井亮一【いまい・りょういち】
交通違反・取り締まりを取材、研究し続けて約40年、行政文書の開示請求に熱中して約20年。裁判傍聴マニアになって17年目。『なんでこれが交通違反なの!』(草思社)など著書多数。雑誌やテレビ等々での肩書きは「交通ジャーナリスト」。2020年の目標は東京航空計器の新型オービス(レーザー式)の裁判を傍聴すること!

【関連リンク】
今井亮一の交通違反バカ一代!
https://ko-tu-ihan.cocolog-nifty.com/

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