既存のフィールドを越える“試金石”になるか…ウィラーが描く交通ネットと可能性
新名神高速道路 土山サービスエリア(滋賀県甲賀市)で休憩するウィラーバス。SAの駐車場などでは、乗務員による安全点検が行なわれ、ホイールナットを叩くカチカチという音が聞こえてくる《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》
運輸やITマーケティングを手がけるウィラーグループが、4月1日から北近畿タンゴ鉄道(京都丹後鉄道)の運行を担う。既報のとおり、同社はまず地域の移動手段に主眼を置き“ウィラー的手法”で移動を変えていくという。
ウィラーグループの代表を務める村瀬茂高氏は、2年前の雑談のなかで、電車やバス、飛行機、船という枠を越えた将来像について語っていたことがある。ピンクの路線バス、ピンクのレンタカー・タクシー、ピンクの飛行機、ピンクの街……。「もちろんピンクにこだわってない」と念を押しながら、移動の近未来を途切れることなく語っていた。
5年前、雑誌取材のなかで、もとJR東海会長の須田寛氏は、成熟しつつある東海道新幹線の利用イメージについて「新幹線はもう“憧れの乗り物”じゃない。これからは世代を問わずいろいろな人がサンダルやTシャツでサラッと乗れるような移動手段になるはず」と語った。
1969年の東京オリンピック開催にあわせるかたちで、“日本の大動脈”となる新幹線が誕生し、東海道を行く夜行列車が徐々に存在感を失った。平成の時代に入り、それに追い討ちをかけるように高速バスが台頭。ウィラーもその“先陣”として、座席ラインナップやツアー、セット割引などを矢継ぎ早に展開した。そのウィラーが、次の一手として、地方の鉄道に着眼した。
都市間輸送に目を向けると、たとえば東京と京都の間は、2時間ほどで結ぶ東海道新幹線がいまも“主役”だが、その半額ほどの料金で深夜に走る高速バスの“ビジネスクラス”も「平日・休日を問わず空席があまりない状態」(ターミナル関係者)という。ほぼフラットになる座席や、コンセント、無線LANなどが備わるウィラーの「ニュープレミアム」に乗ったときは、外国人観光客やビジネスマン、観光客で満席だった。
「地域の移動をもっとよくしたい」と思う事業者と、「新幹線をもっと気軽に使ってほしい」という鉄道会社の“想い”がうまくマッチしたとき、また新たな“移動のインパクト”が生まれるだろう。
近い将来、陸海空の既存交通の枠を越えたコラボで、移動手段のない地から、さらに僻地へと向かうといった場合でも、“最適な移動プラン”が、手のひらで瞬時につかめる時代がやってくるかもしれない。
- 大野雅人