車中泊は自治体も注目するライフスタイル…つくばVAN泊開催
「明日の暮らし方」として、インスタグラム上でもすでに400万件を超えるタグ付けされている注目のキーワード「#vanlife」(バンライフ)」。もはや「車中泊」はライフスタイルの一つとしても注目されている。
3月21・22日の2日間開催される「つくばVAN泊」は、「つくば万博」が開催され、数々の教育研究機関がある街ならではの、そしてバンライフがテーマと誰もがすぐにわかるネーミングだ。主催者はつくば市。業界や企業ではなく、地元自治体が主催する車中泊イベントという点は画期的だ。
つくば市中央公園に隣接する今回のイベント会場SEKISHO INNOVATION PARK(仮称)は関彰商事が所有してきた土地で、遊休地になっていたのだそうだ。関彰商事は、地元でガソリンスタンドなどエネルギー関連事業や、自動車ディーラーをグループで運営する。都市の中心に残されたスペースの有効活用を、筑波大学の学生が揉んだ結果、注目のキーワード「バンライフ」をテーマにしたイベントを開催することになったのだという。
「このスペースを、地元のアイデアで、イベントとして使い、新しいライフスタイルの発信できるのは、私たちの取り組み、理念とも合致しています」と関彰商事関係者は語る。「私たちは地元でホンダディーラーも運営しておりますので、イベントの電源供給に、ホンダの燃料電池自動車『FCXクラリティ』を提供しています」。地元企業のかかわり方も、単なるプロモーションではなく、方向性やビジョンを感じさせる。
東日本大震災以降、自家用車はそのシェルター的な役割も注目されるようになった。クルマ選びにおいてキャビンスペースを重要視するユーザーは増えた。クルマが移動手段から家の延長としてとらえられるようになって、働きながら都市と地方を往来する「バンライファー(バンで暮らす人たち)」が日本でも現れてきており、このVAN泊でも、仕事と暮らしの「モビリティ」にフォーカスしている。
最近の車中泊関連イベントとVAN泊が大きく違うのは、車中泊が目的でなく、プロセスであり、手段であるということだ。
車中泊ができるようになると能動的な交流を生み、少子高齢化や限界集落を抱える地域を、住まいやビジネス拠点として相互に繋ぐことができるようになる。つくば市は、圏央道、常磐道で日本全国への自動車でのアクセスに恵まれている。様々な社会的課題を解決する糸口として、つくば市が注目しているのがバンライフなのだそうだ。
イベントは1泊2日の泊りがけでの参加も可能。そこで参加者同士が交流し、来場者には実際のバンライフを見せる。トークセッションも開かれ、問題の共有や意見交換を通して、クルマで暮らし一か所にとどまらない暮らし方の可能性を模索し、共創する。
会場入り口の脇には1970年式のマツダ・ライトバスを利用した、「動くスナック」のアポロ号が置かれている。福岡を中心に、人が集う場所に出向いてコミュニケーションの場をプロデュースしている。福岡から筑波までつくばまで自走してきたのだという。高さ50mの「H-2ロケット」の実物大模型を背後にインスタ映えスポットにもなっていた。関係者は「福岡の街を楽しくするということでスタートしました。車内で寄り添うと、人の話も弾んだりします。車中泊のイベントにはマッチしているかもしれませんね」と話していた。
また、モバイルハウスのクリエイター集団SAMPO.Incが手掛けたクルマもならぶ。トイレ、キッチンといった機能だけを不動産としてもち、他の機能はすべて脱着可能な部屋にして軽トラックに搭載し、居住空間を動かせるようにする、というライフスタイルを提案している。荷台の居住スペースはもはや作り手の個性や感性で創られた芸術作品の様相さえ感じさせる。
また、サウナを軽トラックに載せるようにして、大自然の中でサウナが楽しめるトラック、名付けてサウナトラックは、オーナー開発者の悔しさが生んだ1台だ。
「海外のニュースで見て、サウナを楽しみ、川や雪にそのままダイブするようなスタイルにあこがれを持っていました。日本でも同様のイベントがあるので参加しようと思ったところ、あっという間に参加券が完売。あの悔しさがなかったらこのクルマはなかったかもしれません」と話す。車内には自身で個人輸入したという、薪をくべるサウナが設置されている。「薪の燃える香り、隙間風が循環して空気が淀まないサウナは格別ですよ」と教えてくれた。
こんなことができる、という機能ではなく。こんな経緯で生まれたというストーリーが必ずあるのがバンライフの特徴と言えるだろう。初日は開会直後、雨に見舞われたものの、昼前からは好天に恵まれた。小さい子供を連れた家族連れなどで賑わった。
- 中込健太郎