エアバッグとシートベルトの衝撃が時間差で…ドラポジの重要性を改めて考える【岩貞るみこの人道車医】

社会 レスポンス

正しいドライビングポジション(ドラポジ)をとらないと、エアバッグやシートベルトで逆に怪我をする。これまで私はこのコラムでもそのような注意喚起をしてきた。特にシートベルトは、腹部に食い込み、腸や腹筋をずたずたにすることがあるのだ。

ところが今回は、直接のケガとは違うところから死亡に至った例が報告された。日外傷会誌に掲載された論文「エアバッグとシートベルトによる胸部への外力で発生した大動脈原生多発塞栓症の一例」について、情報を共有したい。

エアバッグとシートベルトによる広範囲への衝撃が時間差で影響

事故は、70代男性が軽自動車を40km/hで運転中に意識を喪失し、ハンドルに向かって前傾する状態で信号待ちをする前方の乗用車に追突するように起きた。シートベルトは装着。エアバッグも展開している。衝撃による車内への変形はなく、救助活動はスムーズに行われたことが想像できる。

病院に搬送されたとき男性は意識があり、目を開けて会話もできるレベル。この状態だと付き添った家族は、安心してしまうのではないだろうか。診断は、胸骨骨折、胸の動脈損傷、多発腰椎圧迫骨折である。胸の動脈はすぐに血管塞栓術という手術が行われており、死因とは関係ない。

一方、助手席に同乗していた妻に目立ったケガはなく、これだけで、いかに運転中の姿勢が大事かがわかる。今回の男性の場合は意識を失ったという特別な状況だったが、運転をする私たちは普段からハンドルとの距離は適切に保つ必要はあるだろう(取扱説明書に〇センチ以上開けるよう記載されていることが多い。いずれもだいたい30cm弱という感じ)。

しかし、その後、男性の容態は急変する。腹部に広範囲で虚血性壊死が発生したのだ。血管のあちこちが詰まったのである。さらに両脚の筋肉への動脈にも小さな血栓がつまり、ひざ下で血流が止まる事態に。これらにより壊死した有害物質が血液中に流れることになる。そして、入院から5日後に死亡に至っている。

医師によると、追突の原因になった意識喪失は、今回の死因とは無関係とのこと。また、広範囲にあちこちの血管が詰まったのは、エアバッグとシートベルトによる「鈍的胸部外傷による、二次的な大動脈原生塞栓症」ということだった。頭がい骨骨折や、内臓破裂など、狭い範囲で強い衝撃を受けると脳や内臓に直接ダメージを受けることは容易に想像ができる。しかし今回は、広い範囲に受けた衝撃が、時間差で影響していたのだ。

一般的に、血管内側の壁にこびりついたプラーク(悪玉コレステロールが関係する塊)が血管内に詰まるのは、コレステロール塞栓症として有名だ。脳や心臓のこうした塞栓症は、早期治療開始により救命が可能だが、今回は、この除去手術の適応にならない小さい多数の塞栓が発生していたのである。胸部にある大動脈にエアバッグなどの鈍的衝撃を受けたことで、もともと70代男性の大動脈の内側にこびりついていたプラークがあちこちではがれて、内臓や両脚の血管をつまらせたというわけだ。

ドライビングポジションが悪ければ凶器にもなる

お亡くなりになった方のご冥福をお祈りするとともに、私たちは、この死を無駄にすることなく安全運転に努めたい。血液どろどろ生活をして、健康診断で数値の悪い人は、日ごろからプラークによる血栓が生じないよう、そして、衝突時にはがれおちたプラークが全身に回ることないよう、生活習慣の改善をしたいものである。

そして、シートベルトもエアバッグも、正しいドラポジをとってこそ効果が発揮すると同時に、ポジションが悪ければ逆に凶器になることを改めて肝に銘じたい。特に、ハンドルをひきよせるような前のめり系な運転(エアバッグのあるハンドルと胸部の隙間が狭くなる)は避けたいものである。

シートベルトもエアバッグも、正しく使えば効果は高いことは言うまでもない。ただ、完璧でないことも忘れてはいけない。私たちが正しく使うのと同時に、自動車メーカーは、高齢化による体格や骨格の変化、日本人ならではの体格に対応すると同時に、現実社会では、今回のような合併症が起こっていることを認識し、少しでも安全性を高める開発を期待している。

参考文献:藤森大輔、本村友一、山本晃之、他.エアバッグとシートベルトによる胸部への外力で発生した大動脈原生多発塞栓症の一例. 日外傷会誌 J-STAGE早期公開(2022年3月30日)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjast/advpub/0/advpub_36.3_06/_pdf/-char/ja?fbclid=IwAR2tq4REt3yinoM4KTSmqADcqgAOz1sZhelUkJWtblBkbjS27JU0jDVUutg

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家

イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

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