シトロエン『C5 X』日本人カラーデザイナーが語る「シトロエンのカラーデザイナーが他社とは違う」理由

業界 レスポンス

新たなるシトロエンのフラッグシップモデル、『C5 X』のカラー&マテリアルを担当したのが日本出身の女性カラーデザイナーであることは、方々で報じられている。その柳沢千恵氏が、日本市場ローンチとなった今回、東京のステランティス・グループのオフィスでインタビューに応じ、自身のキャリアや「シトロエンのカラーデザイナー」という仕事について詳しく語った。

キャリアのきっかけはマツダのインターンシップだった

なぜ、自動車のカラーリストという仕事を選んだのか。その経緯から、まず尋ねてみた。

「元々、プロダクトデザイナーになりたいと昔は思っていました。私自身、生まれたのはアメリカで、北海道に住んで東京に来て、母方の祖父の実家が静岡県の清水だったんですが、母方に歯車を作る製造業、小さな町工場を営む親戚がいたんですね。いわば世界で広く評価されている日本のモノづくりが身近にあって、モノを作るのが好きだったところに、自分がデザインしたものが工場で沢山つくられること、自分がデザインしたものが、工場でできて世界中に広まっていく、そういう仕事をしてみたいと早い段階で思ったんです」

「なぜ自動車だったか? 母が元々、自動車部で、乗り物に乗るのが好きな家だったんですよ。旅先とかで乗り物なら料金は多少高くても頑張って乗れば、体験になる、印象に残る、というのが教え。祖父かららしいんですけど、それが家訓としてあって。だから、乗り物があったら乗れ、と。そんな風に育って、小さい頃から乗りものが基本的に好きで。プロダクトデザインって家電系と自動車系に分かれるんですけど、自動車系は女性も少ないですし、人と違うことをやった方がいい、という思いもあり、自動車系を選びました」

そこからカラーマテリアルという、より専門化されたデザイナーの道を選んだきっかけは、大学3年生の時のインターンシップだったそうだ。

「当初はインテリアデザイナーになりたい、空間のデザインっていいなと考えていたんですが、世界観を作る仕事としてカラーマテリアルというものがあることを、それを仕事として教えていただいたインターンシップ先の自動車会社が、マツダさんでした。学部の3年生でしたから、もう20年近く前。新子安の研究所で、ちょうど『RX-8』を終えたばかりの前田育男さん(現マツダ シニアフェロー ブランドデザイン。魂動デザインなどを取りまとめた)が、学生だった私たちに色々と親切にしてくださいました」

シトロエンとの出会いは間接的には大学の先生、何でも母校の筑波大学の芸術学群に、シトロエン・マニアの先生がいたのだそう。

「直接の指導教官は、もう退官されていますがプロダクトデザイナーで元日産の蓮見孝先生。授業でお世話になってシトロエンという車について色々と教わったのは、山中敏正先生でした。車が好きな人が多い学校で、自動車会社に就職した先輩も少なくない環境ではありましたね」

『C4カクタス』を見て決めた

最初に選んだ勤め先は日産で、5年ほど経過した頃にフランスはルノーへ出向した。2012年から2014年のことだ。2014年末からは日本へ帰任したものの、フランスを発つ前にちょっとした“事件”があって、1年後の2015年終わり頃、柳沢さんはPSAグループ・シトロエンに転職することとなった。

「ちょうど帰任する直前、2014年のパリショーで、『C4カクタス』の量産型が発表されたんです。展示されている車両がピンストライプが紫だったりとか、ボディカラーも紫、蛍光の黄色とかがあって、色と素材で遊んでいるのを見て。この会社でカラーマテリアルやれたら楽しそう、働いてみたいと思ったのが、転職することになった直接のきっかけです。そして今、C4カクタスにフランスで乗っています。前期型のユーザーなんです」

そう、ある意味、家訓通り、まるで忘れ物を取りに行くかのように、“旅先で出会った乗り物には、必ず乗るべし”を果たすべく、彼女はフランスに舞い戻ってシトロエンで働き始めた。しかもスティル・シトロエンに加わって最初に担当した仕事は、あろうことか、C4カクタスのマイナーチェンジ版のカラーマテリアル担当だった。

「あの緑のコミュニケーションカラーも、私が選んだんですよ。フェイスリフトやマイナーチェンジで、あらゆる自動車会社が目指す流れだと思うのですが、『バリューがあるように見せる』というのが、フェイスリフトでよくいわれるオーダーだと思います。前期型は確かにデザインとして魅力的でしたが、やはり時代の流れといいますか、お客様の要望を踏まえ、分かりやすい価値、買いやすさを再訴求せよ、というのがありました。例えばエアバンプのような個性の強いディティールは、車好きでデザインの好きな方には熱狂的に愛されたのですが、マイチェン後も多くの人に受け入れられるのは難しいかな、というところがありました。入っていきやすくする、親しみをもたせる、アクセシブルにすることがマイナーチェンジの方向性でした」

自分の仕事は、触れる部分の素材すべてを担当すること

カラー&マテリアルと担当するカラーデザイナーの守備範囲は、インテリアの素材や配色のみならず、先に述べたようなエクステリアカラーの選択にも及ぶ。

「ボディカラーもそうですが、全素材の表面処理を見る・扱うこと。聞かれたら、自分の仕事は、触れる部分の素材すべてを担当すること、という言い方をしています。例えばフォグランプ周辺の小さなパーツを、クロームにするかアクセントカラーを入れようとか。あるいはリアの小窓、Cピラーのところですね。クローム表現でラインを入れて、メッキモールからそのまま、グラデーションで下に下ろしていくといった処理です。こういった辺りもカラーデザイナーが手がけます。それこそ、どこまでクロームにするか、ツートンのラインをどうするか、とか」

「この車(C5 X)は最初からエクステリアデザイナーがツートンでいくイメージでデザインしているので、色の切り方は悩みなく出来たんですけど、車によってはツートンを想定しないでデザインされているものもあります。その場合はカッティングラインを、カラーデザイナーが指示を出すこともあります」

想像以上に、素描段階より車の仕上がりそのものに影響するカラーデザイナーの手際の一旦という訳だが、例えばエクステリアデザイナーの作ったデッサンなど、ある程度、プロダクトとして完成時のカタチに対して、素材とかグラフィックについてどのぐらい事前に、カラーデザイナーは影響や提案をするものなのだろうか?

「これは完全にカラーデザイナーのエゴなんですけど、何か、この色の素材を使いたいというときに、カタチを変えなきゃいけない必要が生じる時、デザイナーの側にカタチを変えてもらった時には、ちょっと「勝った」って思っちゃいます(笑)。もちろん勝ち負けじゃありませんけど。エクステリアって、あまりアクセントカラーを入れることを考えないで絵を描いていますよね。でもシトロエンはアクセントカラーを入れなくちゃ、というのが付きものなので、『ちょっと、アクセント入れられる部品を作っておいてよ』と吹き込んでおくと、ピッと、申し訳程度みたいな線をエクステリア担当が入れたりするんです。でもそれだと、完全に全体から浮いているので、もうちょっとちゃんと一体化しようか?みたいなことも言ったりします。そうやって、ちょいちょい主張しに行かないと、色を入れる部品がないまま開発が進んでしまうんです」

この辺りがチームワークとはいえ、個性のぶつかり合いと主張、パスの送り手と受け手といった面白さだろう。ちなみに色を入れる部品がないままというのは、どういう状態を指すのだろう?

「(アクセントカラーを入れる想定をぜずに)この一部品を全部塗ったら、凄いカタマリになっちゃう、と。だからアクセント入れる部品を考えてね、と伝えるのはエクステリアデザインになる前に、必ず伝えておきます」

なるほど。確かに時々、国産車で妙にあか抜けないアクセントカラーの入り方を見かけるのは、ドアミラーそのものとか加飾的エアロだけとか、パーツ単位で多大な面積で闖入しているようなアクセントだったりする。柳沢さんのいう、すり合わせる前のナマのデザインとのビミョーなぶつかり合い、こうしたプロセスや気遣いがすっぽ抜けているのだろう。

「ロゴで遊んでも怒られない、というのはすごいこと」

「インテリアデザイナーとも、どこを柔らかく見せたいとか、どこを固く見せたいといった話は前もってします。今回のC5 Xでいうと、インストルメンタルパネルを柔らかく見せたいんだったら、ちょっと間の空いた素材感でクッション性をもたせるか、そんな話はしました。最終的にダッシュボードは、スラッシュっていうちょっと柔らかい樹脂素材になったんです。シュヴロン(=ダブルシュヴロン。シトロエンのブランドロゴ)の幾何学模様を3Dマッピングして、レーザーで精細切削した金型を用いた、シトロエンとしても初の試みです」

同じくダブルシュヴロンのモチーフはC5の車内、レザーシートのパーフォレーションやウッドの表面の凹凸模様など、あちこちに貫かれている。ところで同じくシュヴロンモチーフの、あの一筆書きステッチはどのように生まれたのだろう?

「まずプロジェクトの最初期に、フラッグシップということなので、シトロエンの上質とは何ぞや?というテーマで、チーム内でブレインストーミングしてみたんです。シトロエンらしいブランドとはどのようなもので、その目指すべき上質とは何なのか。そうした過程で、私がドローイング・ワークショップを主催したんですが、シトロエンのコンセルヴァトワールに色々な画材を持ち寄って、シトロエンらしいものを絵にしてみようと、皆で自由に柄を描いたことがあるんです。その時にチームの誰もが、シュヴロン柄をすごく沢山描いているんですね。ロゴを応用した柄を沢山。過去の車でシュヴロン柄を使っているもの無論、ありましたし。こうやってロゴで遊ぶというのが、ひとつのシトロエンらしさなのかなと。じつはロゴで遊べない、CI管理がガチガチに厳しい会社もあるんです。シトロエンって、平たく言ってしまうと、CI管理がいい意味で(力を込めて)ユルい。自由に解釈して良し、という」

いわれてみれば、同じPSAのプジョーも何度もライオンの姿が変遷している通り、書体やデザインの焼き直しではなく、時代の求めに応じて変幻自在というのがフレンチ・ブランドの傾向かもしれない。

「ロゴで遊んでも怒られない、というのはある意味すごいことなんです。それをカラーマテリアルの要素として採り入れていくと、シトロエンらしくなるんじゃないか? こういう細かいことをすると、お金もかかるし手間もかかります。ステッチの話に戻りますが、変な話、やろうと思えばこういうものは内装のサプライヤさんがカタログを用意していて、既存の柄がある中から選ぶこともできちゃうんです。でも私たちは今回、自分たちで柄を作って、サプライヤさんにお願いすることにしました」

「今回、私自身がこだわったのは、デザインしたものをデザイナー支給すること。プロジェクトによってはサプライヤさんが出してきた柄を、そのまま使うことがありえます。すると、柄とサプライヤ選定が繋がっちゃう。デザイナーから柄を支給すると、どこのサプライヤさんを選定してもいいことになりますよね。デザイン自体は私たちが管理していますから」

メーカーとサプライヤの関係は、一般ユーザーには見えにくいところだが、この部分を柳沢さんが力説するのは、確たる理由がある。

「例えばサプライヤさんの柄がよくて市販モデルに仕立てて使いたい、という時に購買の方から、A社が入っていたけどB社の価格でやって欲しい、というオーダーもありえます。とはいえA社の柄だからB社にコピーさせてはいけない、それは当然ですよね? ごくたまにあるケースで、どうしてもこのA社の柄でB社に行かなきゃいけない場合は、そのデザインを買い上げたりする必要が生じるんです。すごくプロセスが難しくなってしまうんですよ。ですからドアパネルやステッチだけでなく全部の素材、シトロエンのデザインとして表現したものを作業してもらうというやり方にこだわったんです。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、状況によってはサプライヤさんのカタログから選ぶのもひとつの選択肢でありながら、そこはこだわって自分たちの側で細かな柄まで描いて仕上げて、それをどう表現していくか?表現してもらえるか?というのが、今回カラーデザイナーとしてすごく注力した点です」

知財として自分たちがデータをもっているという強み

それはフラッグシップ・モデルの開発という、スパンの長い千載一遇の機会だからこそ、知財として意匠として、ベースになるものを生み出せるチャンスでもあったのだ。

「知財として、木目の加飾も、レザーのパーフォレーションも、ステッチも、すべてデータで自分たちがもっているというのは、強味です。ですから、その後のグッズ化ですとか、見本市や展示会用のブースにも転用できるということ。自分たちのアイデンティティになる要素が作れたこと、それが誇れるところですかね。だからC5 Xでは、アイコニックなマテリアルというのを提案して、それが他のラインナップにまで水平展開されているんです。ステッチとか各々のディティールでいうと、じつは先に日本に別モデルで上陸していたものもありますが、その始まり、開発は、フラッグシップから着手されたものです」

いわれてみれば確かに、『C3エアクロス』の後期型や『C4』辺りに、一筆書きのステッチはすでに認められるが、順番として上位モデルがまず先行的に使用して、そこから下ろしていくという順序にこだわらないところが、じつにフレンチらしい話でもある。

「開発の順番としては、C5 Xから始めたものだったんですけど、世に出る順番として他の車種から、先に採用されていったんですね。。日本にも先にもう出ちゃっていたんだなぁと、後から目にしたクチです。木目調ファブリックとかも、C3エアクロスで惜しげもなく。でも、ブランドとして、チームとしては、水平展開を効率よく、ですから」

いわばカラーデザイナーとして柳沢さんは、単にフラッグシップモデルのカラー&マテリアルを仕上げただけでなく、CI(カンパニー・アイデンティティ)そのもの、そのデータベースとなる要素を種々、作るという大業を果たしたといえる。

「ホントにそこは、チームの風通しがいいからこそ、仲良く分け合っています。すごくフレキシブルで、ひとつのブランドを作っていくという意識が強いんです。会社によっては、新しいものを持ってきてほしいっていうプロジェクト・マネージャーもいると思います。他のプロジェクトで使われたものは使いたくない、ということもありえます。でもシトロエンは全体としてブランドとして揃えていこうという意識が強くて、今の世代(のラインナップ)は、こうした要素がすべて入っていると思います」

「誰かのこだわりでこうなっている」をダイレクトに感じる

では、シトロエンに抱いていたイメージと、今働いてみて中から見た印象とで、変わったことはあるのだろうか?

「割と一緒でした(笑)。働いている本人たちが好きなブランドで、シトロエンっぽさってこういう世界観だよね、っていう共通認識の中で、仕事をしているという。入社以前に外から見た時も、皆さんシトロエンらしさを楽しんで作っているように見えたんですけど、入ってみてもそういう感じです。作り手の変なこだわり、思いっていうのが、プロダクトを通じてチラホラ見える部分って、あるじゃないですか。例えば、私がすごく好きなのでC4カクタスの話ですが、カクタスのワイパーって水しぶきの出ない、わりと高級車でしか使われていないブレードウォッシャータイプなんです。そういうこだわりがあるのに、リアウインドウはチルト式という、アンバランスさが可笑しいというか、ダッシュボード上部を物入れにしたばかりにエアバッグが天井に入っていたりとか。その、『誰かのこだわりでこうなっている』のが、ダイレクトに感じられるんです」

「C5 Xは自分が担当したので、そのアンバランスさが自分では見えていませんが。今までシトロエンが作ってきた車を見ると、ああ、これを選択した担当者は力を入れていたんだな、それだけワイパーにはこだわったのにリアウインドウはチルト式でよしとしたんだな、という。コスト的なメリハリをつけるだけなら、もっと安いワイパーを選んでいますよね。他の会社さんだったら、このタイプのリアウインドウにしたなら、ワイパーももっと廉価版を使うことに躊躇しないと思うんです。その点、シトロエンは各部署の担当者の思い入れの強さが、造り込みやパーツのグレードに滲み出ています。強い想いをもった人のパーツが付いているだけ、と思われるかもしれません。ですが、いざ入ってみたら、すごい情熱をもって接すると、そこのところをちゃんと尊重してくれる。ですからC5 Xにおいては、カラーマテリアルについても、色々と主張したものが、カタチになったな、という気がしています」

そうやって控えめに、だが力強く述べる柳沢さんの言葉には、難解さより静かな自信と達成感が滲み出ている。しかも幸運なことに、この達成感はC5 Xのシートに腰を下ろすだけで、グッド・バイブレーションとして伝わってくる類のものだ。

  • 南陽一浩
  • シトロエン C4カクタス 改良モデル《photo by Citroen》
  • シトロエン C4カクタス 初期モデル《photo by Citroen》
  • 『C5 X』のカラーデザインを担当したシトロエンの柳沢千恵氏《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • 『C5 X』のカラーデザインを担当したシトロエンの柳沢千恵氏《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • 『C5 X』のカラーデザインを担当したシトロエンの柳沢千恵氏《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
  • 『C5 X』のカラーデザインを担当したシトロエンの柳沢千恵氏《写真撮影 南陽一浩》
  • シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)《写真撮影 南陽一浩》
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