主力チームが欠席! なんかクルマが遅い! せっかく復活した「嬬恋」の「スノーラリー」の特殊な事情
この記事をまとめると
■2023年の全日本ラリー選手権の第一戦が開催■ラリー・オブ・嬬恋はシリーズ唯一のスノーラリー■タイヤの選択がより重要なラウンドだ
ラリー・オブ・嬬恋は特殊なラウンド
2023年の全日本ラリー選手権が早くも開幕を迎え、2月3日〜5日、群馬県嬬恋村を舞台に第一戦「ラリー・オブ・嬬恋」が開催。既報のとおり、「スバルラリーチャレンジ・カマタ」でスバルWRXを駆る鎌田卓麻が好タイムを連発し、2020年の丹後ラリー以来、JN1クラスで勝利を獲得した。 ところで、このラリー・オブ・嬬恋は特殊なラウンドで、シリーズ唯一のスノーラリーとして開催された。加えて全日本ラリー選手権では有効ポイントシステムが採用されていることから、トヨタのワークスチーム「トヨタGAZOOレーシング」を筆頭に多くの主力チームが同ラウンドを欠場。 しかも、暖冬の影響なのか、ラリーウィークは積雪量が少なく、5日のデイ2では雪が溶け、アスファルト&グラベルが露出するセクションが増えるなどスノーラリーとしては残念なコンディションとなった。 それでも2019年の大会以来、4年ぶりに全日本シリーズにスノーラリーが復活しただけに筆者は楽しみにしていたのだが、初めて国内のスノーラリーを見た筆者の感想が「むちゃくちゃ遅い!」だった。 長年、WRCを取材してきた筆者は、これまでスノーラリーはスウェーデンおよびノルウェーしか見たことがなかっただけに、正直、ラリー・オブ・嬬恋のスピードレンジの低さに驚いた。 そもそもスウェーデンは高速ステージが多く、フィンランドに次いでアベレージスピードの高いラウンドであるだけに、ストップ&ゴーを主体とする日本の林道とは大きく異なるのは当然である。同じスノーラリーとはいえ、まったくリズムが異なっているが、それ以上にヨーロッパのスノーラリーと日本のスノーラリーの違いが使用タイヤにある。
タイヤによる差が如実に出たシリーズ唯一のスノーラリー
スタッドタイヤを使用するヨーロッパのスノーラリーに対して、日本のスノーラリーは基本的にスタッドレスタイヤを使用している。今大会のラリー・オブ・嬬恋も2WDモデルのみ、スタッドタイヤの装着が許されたものの、4WDモデルはスタッドタイヤの使用が禁止されていた。 そのため、4WD車両を投入する多くのエントラントはダンロップがラインアップするラリー競技用のスノータイヤを装着。これは圧雪路や深雪路などのスノー全般のほか、アイスにも対応するタイヤで、ラリー・オブ・嬬恋を制した鎌田によれば「ブロックで雪を掴んでくれるのでコントロールしやすい。ミラーバーンみたいな凍った路面では一般のスタッドレスタイヤがグリップすることもありますが、雪やシャーベットみたいなところだったら、圧倒的にラリースノータイヤがいい。コントロール性を考えても今回はラリースノータイヤの一択でした」とのことだ。 実際、ステージで見ていても鎌田は抜群のコントロールを披露。スピード感だけで言えば、スタッドタイヤを装着できるヨーロッパのスノーラリーからは見劣りするものの、それでも国内トップレベルにふさわしいテクニックをみることができただけに、なかなか楽しいものだった。 一方、ヨコハマは全日本ラリー選手権でスノーラリーがカレンダーから外れたことに合わせて、ラリー競技用スタッドレスタイヤの生産を終了している。そのため、ヨコハマタイヤの契約ドライバーである奴田原文雄は、トヨタGRヤリスに通常のスタッドレスタイヤを装着してJN2クラスに参戦していた。ドライバーのスキル的に見れば奴田原が優位に見えたのだが、やはり通常のスタッドレスタイヤではアンダーステアかつトラクション不足は明らかだった。おそらく本人にとってもストレスの溜まる一戦だったと思うが、それでも2位に入賞しただけに奴田原にとっては殊勲の表彰台と言えるだろう。 ちなみに前述のとおり、2WDモデルはラリー競技用のスタッドレスタイヤのほか、スタッドタイヤやチェーンの使用もOK。選択肢の多い状況となっていたのだが、大半のエントラントがスタッドタイヤを装着していたことから、2WDモデルとは言え、スノー路面でも鋭いブレーキングおよび素晴らしいトラクション性能を見せていた。 以上、全日本ラリー選手権唯一のスノーラリーについて、タイヤを中心にリポートしてきたが、もし、雪の量がもっと少なければ通常のスタッドレスタイヤがメインになっていたのかもしれないし、今年のWRC開幕戦、ラリー・モンテカルロのように完全なドライターマックであれば、オールウェザータイヤも選択肢のひとつになっていたのかもしれない。 そうやって考えると4WDモデルはスタッドタイヤが禁止されているとは言え、タイヤの選択肢は多く、コンディションに合わせてチョイスが可能。もちろん、エントラントにとっては負担が増えることから参加台数は少ないものの、タイヤの選択次第ではドラマチックな逆転劇が起こる可能性は高い。ヨーロッパに比べると国内のスノーラリーはスピード不足ではあるものの、それでもターマックやグラベルとはまた違った魅力的なラウンドとなっている。