同じプロドライバーでも対極!? マニアが多い「バス運転手」とクルマへの興味が薄い「タクシー運転手」
この記事をまとめると
■運転を仕事にする人はクルマが好きなのだろうか?■バス、タクシーのドライバーについて解説■時代による変化も見られるようだ
バスの乗務員にはマニアが多い
以前、新車ディーラーのセールスマンといっても意外なほどクルマ好きが少ないという原稿を書いたことがある。クルマに多少なりとも興味があるので新車販売業界をめざしたのだろうが、多くの人が期待するようなオタクレベルからはほど遠く、単に好きくらいのレベルのセールスマンが目立ち、知識量や興味度合いでお客に負けることも目立つと聞く。 最近は働き手不足が深刻なので少ないようだが、過去にはメカニックとして一定期間働くと、新車販売業務、つまりセールスマンへメカニックが転用されるケースが目立っていた。すべてのメカニック経験のあるセールスマンが当てはまるわけではないが、“口から先に生まれてきた”という印象とはほど遠い、寡黙なタイプも目立つなか、専門的に自動車整備を学び、当然クルマへの興味もおおいにあるので、そのような知識や経験に裏打ちされたセールストークに説得力があり、台数を多く売る優秀セールスマンにはメカニック経験者が多いとも聞く。 それでは日々ステアリングを握るバスやタクシー乗務員はどうなのか見ていこう。同じ旅客運送業務に従事するのだが、バスとタクシー乗務員は両極にあるといってもいいだろう。 バスの乗務員はクルマというよりは、バスに対してまさにマニアレベルで興味を持っている人が大半である。乗務員だけでなく整備士や事務所で働く運行管理者、はたまたバス関連用品のメーカーに勤務する人など、とにかくバス関連の業界関係者は幅広くバスオタクといっていいほどのめりこんでいる人を多く見かける。「就職するまではさほど興味がなかったのですが、いざ働き始めると仕事の範疇を越えてバスに熱中するようになりました」との話もよく聞く。 乗務員のなかには親子二代で同じ会社で乗務員として働いているということもあるようだ。アメリカでは同じ自動車メーカーの同じ工場で家族三代で働き続けるといったことは珍しくないが、日本ではあまり聞かない話である。また自宅や愛車には現役を引退したバス用品(降車ボタンやつり革、運賃箱など)を置いている乗務員もいるようだ。そのため、一般のバス愛好家にも親切に接してくれるようである。
タクシードライバーはクルマに興味がない人も少なくない
ある乗務員はあるバスメーカーの観光バスが大好きで、そのバスを使用する事業者を渡り歩いているということも聞いたことがある。「とくに路線バスの乗務員の給料はそれほど多くないと聞きます。それでも働き続ける理由のひとつにはバスが大好きというのがあるそうです」とは事情通。また、ある路線バス事業者で、そのなかでもある営業所で峠を走る路線があるそうだ。その事業者で乗務員募集をかけると「路線バスで峠を走ってみたい」と、営業所と運転したい路線を指定して求人に応募してくる人もいたそうである。 一方でタクシー乗務員ではクルマへの興味があまりない人が多いと聞く(おもに法人タクシーの乗務員)。ある関係者に聞くと、夜間に当直勤務していた運行管理者のいる車庫に、「エアコンが効かない、壊れたみたいだ」と乗務員が駆け込んできたそうだ。運行管理者が当該タクシー車内の空調操作部分をみると、ACボタン(エアコンを作動させるボタン)を押していなかっただけだったそうだ。また別の日には車両点検の時に「フォグランプつけてください」と乗務員に声をかけると、「どのスイッチを使うんだ」と聞き返されたそうだ。趣味的な部分だけでなく、クルマ自体への興味が全体的にあまりないように見えると事情通は教えてくれた。だからといってプロドライバーとしてのプライドが欠如しているとは言うつもりはない。 最近では自動車メーカーのエンジニアレベルでも、ライバルメーカーや海外メーカー車への興味や、海外の最新トレンドに興味を示さない人が目立つとも聞いている。仕事として割り切っているといえば聞こえはいいが、やはり寝る間も惜しんで熱く語り合って車両開発している姿に筆者は好感を持つのだが、今の世の中はそのような働き方を許容していないことがあるのも事実で、なかなか難しいことになっている。大昔に開発者による新車説明会で「同じ釜の飯を食った仲間たちで……」と語っていたメーカーがあったが、そのころの日本車はまさに光り輝いていた。 まあ働く姿勢についてはさまざまな考え方があるだろう。ただクルマ好きを長年貫いてきた筆者としては、筆者と同じシンパシーを感じる、熱い気持ちで働いている業界の人に出会うとなんだか嬉しくなってしまうのである。