1000馬力超えが当然のパワーインフレ! スーパーカーが可愛く見える「ケーニグセグ」って何もの?
この記事をまとめると
■スウェーデンのエンゲルホルム空軍基地跡地にケーニグゼグ・オートモーティブ社がある■1997年にCCを発表して以来、スーパーカーを超えるクルマを生産し続けている■最新モデルは2リッター直4+3モーターで1700馬力の4シーターGTの「ジェメーラ」
滑走路をテストコースにして誕生するケーニグセグのハイパーカー
スウェーデンのスコーネ県、エンゲルホルム自治体。と書いても、それがどこにあるのかを知る人は、おそらくほとんどいないことだろう。実際にここはスウェーデンのもっとも南に位置する街で、海にも近いため夏にはマリンスポーツさえもできる観光都市でもある。 ここに2002年まで存在していたのがエンゲルホルム空軍基地だ。現在はすでにこの基地は使用されていないが、その滑走路やかつてJAS39グリペン戦闘機が収納されていたハンガーなどは現在も使用されている。極北のハイパーカーメーカーとも、孤高のハイパーカーメーカーとも称される、ケーニグゼグ・オートモーティブ社がここに本社を構え、約400名の従業員がフルタイムで働く自動車メーカーへと成長を遂げているからだ。 そもそも社長であるクリスチャン・フォン・ケーニグゼグは、なぜここを本社に選んだのか。それは例の滑走路などの施設を有していたこともあるが、実際には旧本社が火災によって失われたという新本社を必要とする避けられない事情があった。 ちなみにケーニグゼグ車にフィットされるエンブレムのひとつは、同家の紋章であり、そしてもうひとつはゴースト・スコードロンと呼ばれる、かつてエンゲルホルム基地をベースとして使用してきたスウェーデン空軍の戦闘機飛行隊の記章であるという。 実際にクリスチャンが自身の自動車会社を設立したのは1994年のことだから、彼らが世界の表舞台に出てこなかった時間は意外に長い。最初にその存在が明らかになったのは、1997年「ケーニグゼグCC」とネーミングされたプロトタイプを、カンヌ映画祭に持ち込み、世界中のセレブの目を魅了した。 そのデザインは現在のケーニグゼグ車にも共通する、抵抗の少ない水中生物のフォルムをモチーフとしたもので、着脱可能なルーフや、垂直方向に回転しながらオープン&クローズする「ディヘドラルドア」など、見る者の目を魅了するディテールに満ち溢れていた。 のちにクリスチャンにインタビューした時、クリスチャンはこの瞬間に自分自身の考えるハイパーカーのデザインや方向性に確信を持ったと答えている。 プロトタイプのCCからさらなる進化を果たし、最初のプロダクションモデルとなったのが、2002年にデビューした「CC8S」だ。 2004年までに6台が生産されたCC8Sは、その後「CCR」へと進化。こちらは14台がデリバリーされ、最高速も395km/hと400km/hを十分に狙えるレベルにまで達している。
ついにはCCXRで最高速度は400km/h超に!
2006年から2010年にかけて29台が生産された「CCX」を経て、ケーニグゼグが初めてオフィシャルに400km/hオーバーの最高速を主張したのは、2007年に発表された「CCXR」だった。また、CCXRは通常のガソリンでの走行のみならず、E85、E100バイオ燃料でも走行できるように設計されており、他社がまったくその分野には焦点を当てていなかったため、再び熱い視線がケーニグゼグに集中した。 そしてケーニグゼグの知名度を、さらに高める原動力となったのは、「アゲーラ」、「レゲーラ」、「ジェスコ」の3モデルだろう。 2010年にデビューしたアゲーラは、完全自社開発による(それまではフォード製をベースとしていた)5リッターのV型8気筒ツインターボエンジンを940馬力の最高出力で搭載するもの。 この時点で最高速は395km/hに達し、翌2011年の同ショーで発表された改良版の「アゲーラR」では、最高出力は1115馬力にまで向上している。2013年にはさらにマイナーチェンジが行われ、1140馬力仕様へとエンジンを強化。オーバー400km/hは確実に現実のものになると思われたが、実際にはタイヤの耐久性の問題でその計測は行われていない。 ちなみにアゲーラ・シリーズは2018年で生産を終了。その究極作ともいえるのは、2014年発表の6台が限定生産された「One:1」で、こちらは1360馬力の最高出力に対して1360kgの車重、すなわちパワー・ウエイト・レシオが「1」であることを意味する車名を掲げたモデルである。1360馬力が1メガワットに相当することから、ケーニグゼグではそれを「メガカー」と呼ぶことも多い。 2015年には80台限定でレゲーラが登場。エンジンは1100馬力までパワーアップし、さらに3基のモーターを搭載したプラグインハイブリッドとなり、システム合計最高出力は1500馬力を超えた。 その後、ケーニグゼグは創立25周年となる2019年にジェスコを発表。5リッターのV型8気筒ターボエンジンで、1360馬力超の最高出力を発揮する(E85燃料使用時)、やはりメガカーだ。車名のジェスコは、クリスチャンの父の名であり、メカニズムとしてはターボチャージャーにカーボンファイバー製の軽量なエアタンクを20個装備し、ここから排出される20barの圧縮空気をエアインジェクターからターボへと送り、ターボラグの解消やそれによるブーストアップを可能にしている。 自社開発の9速マルチクラッチトランスミッション(ライトスピード・トランスミッション)を新装備したことも話題だ。生産台数はすべての仕様をあわせて125台。すでにそのオーダーリストには多くのカスタマーの名前が記されていることは確かだろう。 2020年に誕生した初の4シーターモデル、「ジェメーラ」の存在も見逃せない。こちらは2リッターの直列3気筒エンジンに3基のエレクトリック・モーターを組み合わせ、じつに1700馬力の最高出力を得るというもの。 レベル2相当のADASも装備されるなど、GTとして、そして時には400km/h超えのハイパーカー並みのパフォーマンスを味わえるモデルとして、その魅力は大きい。生産台数は300台。 ジェメーラもまた、これからのケーニグゼグを支える、重要なプロダクトにほかならないのだ。