マフラーから「パンパン!」の破裂音は「あえて」だった! 市販車にも採用される秘密兵器「ミスファイヤリングシステム」とは
この記事をまとめると
■ミスファイヤリングシステムとはターボラグを解消するためのエンジン制御のこと■減速・加速を繰り返すラリーなどの競技車両には現在も採用されている■WRC参戦車両のベース車両には標準搭載されて市販されていたがECUで封印されていた
ターボ車のターボラグを解消する夢のようなシステム
ミスファイアリングシステムは、グループA時代のWRCやマンガ「頭文字D」などで話題になった、ターボラグを解消するためのエンジン制御のこと。 ターボチャージャーは排気ガスの勢いでタービン→コンプレッサーを回すので、エンジンが高回転でまわればタービンも力強くまわり、より大きなパワーを得ることができるが、アクセルを戻すと排出される排気ガスも少なくなるので、タービンの回転数も落ちてしまう。 たとえば、NA2リッターのエンジンが6000回転で回っているときは、毎秒ドラム缶1本=200リッターの空気が吸入・排気されているわけだが、減速のためにアクセルを全閉にし、1000回転まで回転が落ちると、排気ガスの量も毎秒6分の1=33.3リッターになってしまう。 ターボエンジンであれば過給圧がかかっているのでその差はさらに大きく、6000回転でブースが1.0Kgなら、空気の流量は毎秒400リッター。アクセルオフにして1000回転まで落ちると、ターボの回転も落ち込み、過給圧は正圧から負圧になるので、排ガスの流量はNAと同じく毎秒33.3リッターまでダウンする。 空気にだって重さがあるので慣性が働き、一度流れが止まったら、再び勢いを取り戻すにはどうしたって時間がかかる。結果としてタービンの回転も落ち込み、再び働き出すまで時間がかかる。これがいわゆるターボラグ。 山岳部を走るラリーなどでは、減速・加速を繰り返すので、コーナーの立ち上がり、低回転からでもすぐにでもパワーが欲しい。 そこで考案されたのがミスファイアリングシステムだ。ミスファイアリングシステムは、アクセルオフ時に、エキマニ内であえて燃焼ガスを失火させ、その燃焼圧力でタービンを回し続け、ブースト圧を高く保つという仕組み。 具体的な流れを説明すると、 ① アクセルオフ時に1気筒分の点火時期を大きく遅角 ② 上死点後に点火して、混合気が燃焼しながらエキマニへ排出。 ③ 次の気筒は点火をカットして混合気をそのまま排出。 ④ さらにアクセルオフ時にエアを取り込むために電子制御スロットルの開度を調整。 ⑤ 混合気をエキマニ内で燃焼させる。 といった感じになる。
1990年代に実用化されていまなお現役のレース車両にも搭載される
いまでもWRCやスーパーGT、ドリフト競技に使用されているシステムだが、競技車両専用のものではなく、市販車でもスバルのインプレッサWRX STi(GDB以降)、三菱のランサーエボリューション(CE9A以降)、トヨタのセリカGT-FOUR(ST205)など、グループAのベース車両には標準採用されていた。 というのも、当時のWRCのレギュレーションでは、市販車にないシステムを追加することはできなかったので、これらのクルマには市販車にもミスファイアリングシステムを用意して、ノーマルではECU制御で働かないよう封印して売られていた。 ちなみに、ミスファイアリングシステムというのはスバルの呼称で、トヨタや英語圏では「アンチラグシステム」、三菱では「2次エア供給システム」と呼んでいる。 最近話題の「バブリング」も、アクセルオフにあわせ点火時期を大幅に遅角させ、未燃ガスをエキマニに送り、そこで燃焼させる点では、ミスファイアリングシステムの一部といえるが、ハブリングはターボラグの解消というより、「ハブリング音」を出すための音のチューニング、演出が目的なので区別したいところ。 ミスファイアリングシステム自体は、保安基準でもNGということはないが、排ガス検査や近接排気騒音検査でダメ出しされる可能性があるので、システムはスイッチでON/OFFが切り替えられるようにした方が無難。 また、ミスファイアリングシステムを使うと、未燃ガスが燃えるときの「パンパン」といった音(それが魅力といえば魅力)や、燃費の悪化、触媒など排気系にダメージを与えるなどのデメリットもあるので、競技車両以外だとメリットは少ないというのが現状だ。