停電が増加? クルマは「買わない」ものになる? クルマが全部電気自動車になると何が起こるか大胆予測
この記事をまとめると
■多くのメーカーが近い将来、自社生産のモデルをすべてEVにするという目標を掲げている■すべてのクルマがEVに入れ替わったら、私たちを取り巻く環境は変化するだろう■起こりうる変化について詳しく解説する
ガソリンスタンドは壊滅する
社会的な大きなニーズであり、目標となっているカーボンニュートラル。多くの自動車メーカーは2040年~2050年あたりまでの自社生産のモデルをすべてEV(電気自動車)にするというロードマップを描いている。 もっとも2050年の段階で、すべての新車がEVになったとしてもハイブリッドを含むエンジン車が市場でゼロになるわけではない。現実的にはすべての保有車が入れ替わるには最短でも10年程度の期間が必要になると考えられているからだ。 とはいえ、EVの普及については、そうした期間はもっと短いかもしれない。その理由は、エンジン車が市場にあったとしても、先行してガソリンスタンドの多くが消滅して、ガソリンなど石油燃料インフラが壊滅的になる可能性が高いからだ。 EVだけの時代になれば基本的には石油燃料インフラが不要になるのは当然だが、仮に市場にエンジン車が残っていても、その台数が減ってくれば顧客が減るということになるわけで、ガソリンスタンドの経営は成り立たなくなってくる。簡単にいうとガソリンスタンドがどんどん廃業することになる。 そうして石油燃料インフラが壊滅する中で、エンジン車を維持するというのは非常に難しいことになる。産業機器などのニーズもあるので、ガソリンの製造が完全になくなるわけではないだろうが、いまのように手軽にガソリンスタンドで給油できる状況は徐々になくなってくる。 すべてのクルマがEVになったからガソリンスタンドが消滅するというよりも、ガソリンスタンドによる石油燃料インフラが壊滅的になることで、なし崩し的にEVの普及が進むというのが予想される未来のストーリーだ。 さて、すべての自動車がEVになったら電気が足りなくなるというのは今でも指摘されている。実際、自工会の資産では全自動車をEVに置き換えると、日本の消費電力は10%増しになるという。 カーボンニュートラルを実現するためには、現状の火力発電所も消えゆく運命にある。そもそも、現時点で日本の発電能力に余裕はほとんどない。 欧州ではそうした状況の対応策として原発を再評価しているが、はたして世論を伺う傾向にある日本政府が同様の政策をとれるかは疑問だ。いずれにしてもカーボンニュートラルな発電を増やしていくしかない。
クルマは所有からシェアリングへ
再生可能エネルギーとEVの相性がいいことは知られており、運用されていないEVを地域のバッファとして活用するというビークル・トゥ・グリッド、太陽光発電などの電力をEVに貯めておいて家庭で使うビークル・トゥ・ホームといったアイディアもどんどん実現している。 それでも、再生可能エネルギーによる発電というのは基本的には不安定なものだ。すべてのクルマがEVになって、なおかつカーボンニュートラルな発電方法だけになった世界では、停電が日常茶飯事といったことになるかもしれない。 そうはならないという予測もある。前述した自工会の予測は、現在と同じだけの保有車両が同じように走行するという前提であって、自動車の利用が減れば当然ながら消費電力も減ってくる。 そうした可能性の前提として、クルマが所有からシェアリングに変わるというトレンドも考慮しなければならないだろう。 これから技術的に改善されるだろうが、EVにはバッテリー劣化という課題がある。EVを所有するというのは劣化するバッテリーに大金を払うようなものである。車両ごとのシェアリングになるのか、バッテリーだけシェアリングするモデルが誕生するのか、さまざまな可能性があり得るが、いずれにしても全車EVという時代には、クルマは持つものでなく、必要なときに使うものとなるだろう。 もちろん、これは都市部に限った話で、人口の少ないエリアでシェアリングビジネスが成立しづらいために、相変わらず所有という選択が主流であり続ける可能性も否定できないが……。 ともかくモータリゼーションそのものがEVの普及によって大きく変わるのは間違いない。自動車業界100年に一度の大変革期というのは、けっして大袈裟な表現ではないのである。 最後に触れておきたいのが、自動車諸税の行方だ。いわゆるガソリン税が実質的に消滅し、自動車税などの税収も減るであろう未来の課題は道路インフラの整備となる。 マイカーが減って、シェアリングが主流になると、ますます宅配ビジネスは盛んになると考えられ、そうなるとロジスティクスの観点から道路整備はいまよりも重要になる。自動車諸税が減っていく中で、どのように道路整備をするための予算を確保するのかは大きな問題となるだろう。結果的には、ロジスティクスの恩恵を受けるのはすべての国民という建前で、消費税のような広く課税できる部分で増税が行なわれることは確実だ。