電動化時代の犠牲者か! 「アルピナ」がBMWのサブブランド化する「苦渋の決断」の後ろにあるもの
この記事をまとめると
■アルピナが商標権をBMWに譲渡しBMWのサブブランドになる■商標権の譲渡は電動化やCASEなどで変化する時代で生き残ることを模索しての結論だ■スポーツ性やラグジュアリー性など、BMWにとってもアルピナの付加価値は高い
「アルピナ」はBMWが管理するブランドのひとつになる
BMWはドイツ現地時間の2022年3月10日、アルピナから商標権を譲渡されたことを発表した。これにより、アルピナはBMW本社が直結して管理するブランドとなる。 アルピナとBMWの関係はこれまで50年以上に渡って培われてきた。それがなぜ、いまこういう形になったのだろうか? まずは、ドイツ自動車産業界のスポーツモデル、ラグジュアリーモデル、そしてチューニングビジネスに関して少し振り返ってみたい。 1960年代から70年代にかけて、モータースポーツの世界を基盤として、既存車をカスタマイズしたりチューニングする事業が生まれる。代表的な例が、BMWを用いたアルピナやメルセデス・ベンツを用いたAMGである。 アルピナやAMGは、あくまでも独立した企業であり、BMWとメルセデス・ベンツのサブブランドではない。だが、ベース車としてBMWやメルセデス・ベンツを使い、アルピナやAMGのブランドの完成車として世界的に販売するというビジネスモデルを確立していく。 1990年代から2000年代になると、シュニッツアー、ハルトゲ、ブラバス、ロリンザー、カールソンなど、ドイツ系チューニング関連の企業がグローバル市場で台頭し始める。彼らは、エンジンチューニングのみならず、外装では各種のエアロパーツやホイール、インテリアではシート、ダッシュボードまわり、ステアリング、シフトノブなどに独自にカスタマイズを加えていき、富裕層を中心にビジネスを広げていった。 そうしたなかで、AMGはダイムラー(メルセデス・ベンツ)のグループ企業となり、通常モデルラインアップの中でAMGというロゴが当たり前の時代になっていった。
急速な電動化が進む中での生き残りをかけた苦渋の決断
一方、アルピナはドイツ車のチューニングブームが去った後でも、独自性を貫きながらBMW本社との友好的な関係を維持してきた。だが、自動車産業界がCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリングなどの新サービス領域・電動化)という巨大な時代変化に直面するなか、アルピナは新しい時代に向けた事業の在り方を模索していたのだと思う。 CASEのなかでも、アルピナにとってもっとも大きなインパクトがあるのは、やはり電動化であろう。欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)は、2021年7月に「2035年まで欧州域内で発売するすべての乗用車をEV(または燃料電池車)とする」方針を、欧州グリーンディール政策のなかで表明している。 これにより、これまで内燃機関の匠として生きてきたアルピナにとって、未来に向けた大きな判断が必須となったのだ。 一方で、電動化時代でも、スポーティ性やラグジュアリー性を進化させるビジネス領域は十分にあると思われ、BMWにとってアルピナブランドの付加価値は高い。さらにいえば、クローズドエリアで高性能な内燃機関乗用車を楽しむというビジネスモデルが、今後、発展していく可能性も否定できず、新生アルピナの活躍の場が広がることを大いに期待したい。