GT-Rから新型ZへスイッチしたGT500! シャシーは踏襲も小顔化の効果は絶大だった
この記事をまとめると
■岡山国際サーキットで2022年のスーパーGT第1戦が開催された■さまざなマシンがしのぎを削るなかで注目を集めたのが「日産Z GT500」■日産勢の総監督を務める松村基宏さん、ドライバーの松田選手にインタビューを実施
開幕戦で4台の「Z GT500」がデビュー!
2022年のスーパーGT第1戦が4月15日〜17日、岡山国際サーキットで開催。GT500クラスおよびGT300クラスともに激しいバトルが展開されていたのだが、そのなかでもっとも注目を集めたマシンがGT500クラスに参戦した「日産Z GT500」だと言えるだろう。 同マシンは文字どおり、新型フェアレディZをベースに開発された日産の主力モデルで、それまで活躍していた「GT-R」に変わって2022年の開幕戦でデビュー。NISMOの23号車「MOTUL AUTECH Z」を筆頭に、NDDP RACINGの3号車「CRAFTSPORTS MOTUL Z」、TEAM IMPULの12号車「カルソニック IMPUL Z」、KONDO RACINGの24号車「リアライズコーポレーションADVAN Z」と計4台が登場したが、そもそもZ GT500とはどのようなマシンなのだろうか? というわけで、開幕戦の岡山の予選終了後に日産勢の総監督を務めるNISMOの松村基宏さんを直撃。以下、Q&A形式でその模様をお伝えしたい。 ――初めて「Z GT500」の実物を見たんですけど、やっぱり昨年までのGT-Rとはまったく違いますね。ちなみに、市販車の新型フェアレディZと共通したパーツはあるんでしょうか? 松村氏:ヘッドライトとテールランプは生産車と同じですよ。 ――それだけですか? でも、見た目はフェアレディZっぽいですよね。 松村氏:GT500は“スケーリング”と言って、クルマのホイールベースとトレッドは、ベース車両のサイズから伸ばしたり、縮めたりできるんですけど、変化率は同じなのでシルエットは同じような形になっています。 ――なるほど。でも、GT500は完全なレーシングカーだから、ラジコンの外側をGT-RからフェアレディZに変えるような感じで、中身は2021年まで使っていたR35型GT-Rと同じだったりするんでしょうか? それともGT500のZも完全な新型車なのでしょうか? 松村氏:フィッティングの部分もあるので、少なくともボディは新しく作りました。でも、シャシーの部分に関しては、モノコックやロールバーなどは車両規定もあるので、GT-Rと同じモノを使用しています。それに、GT500クラスはフラットボトムを起点に高さが275mmより下の部分に関しては各メーカーとも共通部品を使っています。もちろん、フリックボックスと呼ばれるカナードが付いている部分とラテラルダクトと呼ばれる部分と冷却のクーリングボックスの部分は各メーカーで作っているので、Z GT500も量産モデルのシルエットに合わせて開発しました。 ――ボディに関しては新しく作った部分が多いんですね。ところで、Z GT500はGT-Rより小さいような感じがします。ベース車両と一緒でGT500のレーシングカーも小さくなったりしてるんでしょうか? 松村氏:サイズは同じですよ。Zはロングノーズ、ショートデッキなので“顔”が小さくなっていることから、コンパクトな印象を受けますが、全幅や全長の数値は同じです。 ――なるほど、Zは小顔なんですね。やっぱり小顔は空力的にもいいでしょうか? 松村氏:フリックボックスから流れる空気が変わってくるので、小顔の効果はありますよ(笑)ドライバーたちも“乗りやすくなった”といっているのでバランスは良くなったと思いますし、トップスピードもGT-Rよりは伸びていると思います。 ――ところで、GT500クラスはNRE(ニッポン・レース・エンジン)と呼ばれる競技専用の2000cc直列4気筒ターボエンジンが搭載されていますよね。確か日産はGT-Rの時からNR4S21型エンジンが採用されていたと思うんですが、Z GT500も同じエンジンなのでしょうか? 松村氏:ベースは同じですが、一段進化させたモノです。もちろん、ルール上、鋳物とかは変えちゃいけないものはあるんですけど、エンジンもGT-Rの時から毎年進化しています。当然、2022年のZに搭載されているエンジンもその延長で進化していますよ。 ――ちなみに、Z GT500はNISMOが開発していると思いますが、だいたい開発期間はどれくらいかかるものなのでしょうか? 松村氏:コンセプトを含めると開発期間は約2年です。実際に設計を始めてからは約1年。Z GT500のシェイクダウンは2021年の夏でした。 ――先ほど開幕戦の予選を終えましたが、Z GT500の感触はいかがでしょうか? 松村氏:クルマのバランスはいいと思います。タイヤのマッチングで上位に食い込めたクルマもあれば、そうでないクルマもありますが、その差は非常に少ない。それに昨年の開幕戦のタイムと比べても良くなっているので、クルマなのか、エンジンなのか、タイヤなのかわかりませんが、確実にクルマは速くはなっていると思います。 ――トヨタの「GRスープラGT500」、ホンダの「NSX-GT」に対して、Z GT500にアドバンテージがあるとしたら、どういった部分になるのでしょうか? 松村氏:もともとGT-Rでは鈴鹿で勝っていたりと、ハイダウンフォースのサーキットで強いクルマを作ってきたので、Zでも鈴鹿ではカッコよく走りたい……という気持ちはあります。2021年はSUGOでも勝っているし、オートポリスでも3位に入っている。最終戦のもてぎも悪くなかったので、そういったコースでは今までと同じか、それ以上、速く走れるようになっていたいですよね。 ――ちなみにサーキットにはNISMOから数多くのスタッフが来ていますが、だいたい何名ぐらいスーパーGTに帯同しているんでしょうか? 松村氏:サーキットに来ている人だけで言えば20名以上はいますね。NISMOの23号車のほか、各チームのエンジニアリングもサポートしているし、エンジニア以外の担当者もきているので多いです。 ――Z GT500は合計4台が参戦していますが、すべて同じなんでしょうか? 松村氏:いいえ、チームによってホイールとタイヤが違います。車両規定で、その他の部分を各チームで変えることはできないので、逆に言えば、ホイール&タイヤ以外は全て同じです。 ――ちなみに各チームへ供給するZ GT500は販売しているんでしょうか? レンタルしているんでしょうか? 松村氏:売ってもないし、レンタルもしていません。Zは日産チームのマシンであり、各チームにZで戦っていただいている……といった状況です。 ――なるほど。もし、Z GT500を販売するとしたら金額はいくらになるんでしょうか? 松村氏:カウントの仕方でかわってきますよね。材料だけでも、いい場所に土地付きの一軒家が買えるぐらいの金額になるかな(笑) ――うーん、やっぱり世界に4台だけの希少モデルだけあって、かなりの高級車なんですね。ありがとうございました。
ドライバーも「小顔効果」を体感
このように2022年に登場したZ GT500は、まさにスーパーGT専用のスペシャルマシンで、昨年までTOM’Sで活躍し、2022年はROOKIE RACINGに移籍したエンジニアの東條力さんも「GT-Rはトップスピードがあまり良くなかったんですけど、Zになったことでドラッグが減ったんでしょうね。富士のテストではGRスープラよりトップスピードが上がっていました。その一方で、岡山のテストでもタイムは良かったのでダウンフォースも確保している。うまいことまとめてきたなぁ……という印象です」とのことで、ライバルチームのエンジニアも注視しているようだ。 事実、デビュー戦となった岡山でも松田次生選手/ロニー・クインタレッリ選手がドライブした23号車「MOTUL AUTECH Z」が素晴らしいパフォーマンスを披露。予選は9位に留まったものの、決勝では驚異的なオーバーテイクを重ねて見事3位に入賞し、表彰台を獲得したのだが、果たしてドライバーはZ GT500にどのような印象を抱いているのか? というわけで、23号車を担当するドライバーのひとり、松田選手に気になるインプレッションを聞いてみた。 ――まず、Z GT500は、どんなクルマですか? 松田選手:乗りやすいクルマですよ。フロントの回頭性も良いので、フィーリング的にはいいですね。 ――昨年までの主力モデル、GT-Rと最も違うところはどこでしょうか? 松田選手:やっぱり空力です。GT-Rはボディが大きいのでドラッグが大きかったですけど、Zになってコンパクトになったことがプラスになっていますよね。 ――おっ、小顔効果を体感してるんですね。ちなみに量産モデルの新型フェアレディZにも乗られていると思うんですけど、GTカーにもZらしさを感じる部分はあるんでしょうか? 松田選手:量産モデルのZはフロントが機敏に曲がって、小回りができるし、新型モデルのエンジンはツインターボでパワーもあるから、ドリフトっぽいドライビングもできるんですけど、そこはGTカーも共通点がありますね。 ――なるほど。ところで総監督の松村さんが“鈴鹿でカッコいい走りを見せたい”とおっしゃっていましたが、ドライバーから見てZ GT500の得意そうなサーキットはどこでしょうか? 松田選手:走ってみないと分かりませんが、鈴鹿は得意だと思いますよ。あとは岡山もそうですが、オールマイティに仕上がっていると思うので、どこに行っても速いと思います。 ――確かに開幕戦の岡山で第2スティントを担当した松田選手はむちゃくちゃ追い上げていましたね? 松田選手:土曜日の予選はタイムが出るタイヤじゃなかったので、悔しいQ1落ちだったですけど、その分、決勝ではすごく追い上げられたので良かったです。 ――まるでテレビゲームのようにオーバーテイクしていましたが、気持ちよかったですか? 松田選手:チャンスをものにしないといけないと思っていました。ここだ! という部分でオーバーテイクできて良かったです。何台ぐらい抜いたのか、わかんないぐらい抜けたので良かった。 ――この一戦でかなり手応えを掴んだんじゃないですか? 松田選手:クルマもタイヤもレースに強かったので、予選でも前に行けるように頑張っていきたいと思います。 まさに優勝こそ逃しはしたものの、デビュー戦でまずまずのスタートを切ったZ GT500。とはいえ、熟成を極めたGRスープラもパフォーマンスが高く、14号車「ENEOS X PRIME GR Supra」がポール・トウ・ウインを達成。さらにNSXタイプSにベース車両を切り替えたホンダ勢も強く、100号車「STANLEY NSX-GT」が2位入賞を果たすなど、ライバル勢も強いだけに、2022年のスーパーGTでもGT500クラスでは日産VSトヨタVSホンダの三つ巴のバトルが続くに違いない。