エンジンが消える「Xデー」はいつ? 100%カーボンニュートラルの時期を自動車メーカーごとに探った
この記事をまとめると
■世界の自動車メーカーは2050年のカーボンニュートラル実現に向けた戦略を発表している■グローバルなメーカーは2030年で100%をEVにするというのは非現実的と考えている■それでも2050年時点での100%ゼロエミッション化の予想については反論が出ていない
日本メーカーのEV化は全体の3〜4割ほどが現実的か
日本政府が2050年カーボンニュートラルを宣言したことを、もう忘れてしまっているかもしれないが、世界的にもカーボンニュートラル(実質的に人為的なCO2排出量をゼロにすること)を目指していることは変わらない。もっとも、ロシアがウクライナ侵攻していることに対する経済制裁の関係から、とくにEUがエネルギー政策を見直すことになり、カーボンニュートラルよりも安定供給のほうが優先される昨今の状況ではあるが……。 それはさておき、世界的にカーボンニュートラルを目指しているとして、自動車メーカーはどのような立場に立っているのだろうか。大筋でいえば、ごく一部の特殊なメーカーを除いて、各社ともカーボンニュートラルの実現を目指すというスタンスにある。 国内メーカーでいえば、その急先鋒といえるのがホンダで、二輪・四輪・パワープロダクツ、そしてホンダジェットまで含めて「2050年にホンダの関わるすべての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラルを目指している」。つまり、2050年までにはホンダの商品は基本的にゼロエミッションになっていると考えていい。 さすがにホンダジェットは電動化が難しく、カーボンニュートラル燃料を使っている可能性はあるが、二輪・四輪についてはエンジンを使っていることはなさそうだ。 現実的な目標としても、四輪に関していえば2030年にはグローバルで30機種の電気自動車を展開、年間200万台の電気自動車を生産する計画となっている。ホンダの年間生産規模は500万台なので、商品ラインアップの4割が電気自動車になるという計算だ。 エンジンにこだわっているイメージのあるトヨタもカーボンニュートラル自体は否定していない。むしろカーボンニュートラルの実現には積極的な立場をとっている。 実際、レクサスについては、北米・欧州・中国向けのラインアップについては2030年までに100%電気自動車にすることを発表している。その段階でレクサスだけで100万台の電気自動車を売ろうという計画だ。さらにトヨタ・ブランドでは2030年時点で250万台の電気自動車を販売するのが目標だ。 つまりトヨタ全体としては、2030年には商用車からプレミアムモデルまで30車種の電気自動車を用意、350万台の電気自動車を売ることを計画している。ただし、トヨタの年間販売規模というのは1000万台級であり、2030年の段階でその母数が変わらないとすれば、トヨタ車の3台に2台はエンジンを積んでいるという見込みとなっている。 日本における電気自動車のパイオニア的存在といえるのが、「i-MiEV」で最初に電気自動車の量産化に踏み切った三菱自動車と、日本における電気自動車のスタンダードモデル「リーフ」を作り続けている日産だろう。その2社はルノーを含めた3社でアライアンスを形成している。そのルノー・日産・三菱自アライアンスは当然ながら電気自動車の拡大に積極的だ。 2022年1月、アライアンスとして発表したカーボンニュートラルに向けた目標をみると、電動化を加速するために、今後5年間で230億ユーロを投資、2030年までに5つのEV専用共通プラットフォームをベースにした35車種の新型EVを投入することが発表されている。 ただし、具体的な台数目標は明示されていない。日産単独での目標を見ると、2030年の電動化比率を50%にするとなっているため、純粋な電気自動車の比率はもっと低いといえそうだ。
急進的なEV化を進めるイメージの海外メーカーも大差なし
さて、海外メーカーは電動化戦略についてどのようなロードマップを描いているのだろうか。 販売台数ベースでいえば、トヨタとトップ争いをしている、もうひとつの巨人といえるフォルクスワーゲン・グループは、電動化に邁進している印象もあるが、最新の電動化ロードマップによると、2030年前後の販売台数ベースでいうと電気自動車は50%程度になると予想している。前述したように、2030年でいえばホンダが新車販売の4割程度が電気自動車になると予想しているので、それほど差がないともいえる。 これは考えてみれば当たり前の話で、いくら自動車メーカーが電気自動車を作っても、それを買うユーザーがいなければ電動化は進まない。2050年時点で100%ゼロエミッションになるというのは世界的な流れであるが、2030年時点で大量販売メーカーがターゲットにしている市場でいうと、せいぜい半数程度が電気自動車を選ぶという風に、各社が予想しているという風に理解すべきだろう。 ちなみに、欧州では2番目に大きな自動車メーカーグループとなっているステランティスは、2030年にグローバルで500万台の電気自動車を販売するというロードマップを描いている。その時点で欧州では100%電気自動車、北米でも半数は電気自動車になっていると予想している。同社の販売台数は600万台規模であり、電動化比率でいうと80%以上になるというわけだ。 大手メーカーの中では、北米のリーダーであるGM(ゼネラルモーターズ)も2035年までにすべての乗用車をゼロエミッション化すると発表しているのがもっとも電動化について積極的な目標を掲げているといっていい。 なお、日本で電気自動車「アイオニック5」の販売を開始した韓国ヒョンデグループは2030年に187万台以上の電気自動車を販売するであろうと予想している。やはり規模が大きくなると全ラインアップを電気自動車にすると考えるのは非現実的なのだろう。 一方、ニッチな市場をターゲットにしている、プレミアムブランドは電動化に積極的な戦略をとっている。もっとも積極的といえるブランドのジャガーは2025年までにフル電気自動車にすることを宣言している。 いずれにしても、グローバルに幅広いモデルを販売しているメーカー・ブランドは2030年時点でいえば、ラインアップの100%を電気自動車にするというのは非現実的と考えている。とはいえ2050年時点では商用車を含めて100%ゼロエミッションになっているという予想については、どこからも反論は出ていない。 仮に水素やカーボンニュートラル燃料でエンジンを動かすようになったとしても、効率を考えたときに純エンジン車が残るというのは考えづらく、モーター駆動が基本のハイブリッドカーになっているだろう。エンジンをぶん回して走りを楽しむというクルマ趣味の終焉が近づいていることは間違いないといえそうだ。